透析を始めて仕事が減った自営業の方が利用できる公的サポート

個人事業主やフリーランスとして独立して働いている方にとって、ご自身の体調は何よりも大切な基盤です。しかし、腎臓の機能が低下し、人工透析を導入することになると、これまでの生活が一変してしまうことが少なくありません。

「週に3回、1回4時間の透析に通うだけで一日が終わってしまう」

「透析の後は体がだるくて、とても今まで通りに仕事をこなせない」

「動けない時間が増えて売上が落ちているのに、治療費や生活費の支払いは続いていく」

このように、体調の辛さに加えて、目に見えて減っていく収入への焦りや将来への不安を一人で抱え込んでいる方は非常に多くいらっしゃいます。自営業だからこそ「自分が動けなくなったら終わりだ」と、強い孤独感やプレッシャーを感じてしまうのは当然のことです。

この記事では、人工透析を始められた個人事業主の方が、経済的な不安を和らげ、安心して治療と仕事を両立していくために確認すべき公的なサポートについて詳しくお伝えします。

個人事業主が人工透析を始めたときの生活・経済リスク

会社員として組織に属して働いている場合、病気やケガで働けなくなると、健康保険から最長1年6ヶ月にわたり「傷病手当金」という休業補償が支給されます。これにより、一定の収入を維持しながら療養に専念することが可能です。

しかし、国民健康保険に加入している個人事業主やフリーランスの方には、原則としてこの傷病手当金の制度がありません。つまり、体調不良や通院のために仕事を休んだ時間は、そのまま「収入の空白」に直結してしまいます。

人工透析は通常、週に3回、1回あたり4〜5時間かけて行われます。通院や準備、透析後の止血や体調の回復を待つ時間を含めると、1日の大半が治療に費やされることになります。

さらに、透析導入の前後には、以下のような特有の負担が重なります。

  • 体力の低下とだるさ: 尿毒症の症状や透析による急激な体液の変化などにより、強い疲労感や倦怠感が残りやすく、デスクワークであっても集中力を維持することが難しくなります。
  • 稼働時間の物理的な減少: 週に3日、日中のまとまった時間が拘束されるため、顧客との打ち合わせや納品のスケジュール調整が困難になります。
  • 医療費の負担: 公的な助成制度(重度心身障害者医療費助成や特定疾病療養受療証など)を利用することで窓口での負担は軽減されますが、通院のための交通費や、食事療養代などは自己負担として積み重なります。

このように、個人事業主にとって人工透析の開始は、収入が減少する一方で支出や時間的制約が増えるという、構造的な経済リスクを伴うものなのです。

毎月の安心を支える「障害年金」という制度

このように、病気によって仕事や日常生活に制限が生じた際に、国から支給される公的な経済支援として必ず確認していただきたいのが「障害年金」です。

障害年金とは、原則として20歳から64歳までの間に、病気やケガによって生活や就労に大きな支障が出た場合に受け取ることができる公的年金の一種です。高齢になってから受け取る老齢年金の「現役世代版」のような位置づけであり、決して特別な人だけのものではありません。

人工透析を行っている場合、国の定める認定基準において原則として「2級」に該当すると明記されています。

個人事業主の方に関係する「障害基礎年金」

障害年金には、大きく分けて「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類があります。どちらが対象になるかは、その病気のために「初めて医師の診察を受けた日(初診日)」に、どちらの年金制度に加入していたかで決まります。

  • 初診日に国民年金に加入していた場合(自営業、フリーランスなど):
  • 「障害基礎年金」の対象となります。等級は1級と2級があり、人工透析を開始された方は原則として「2級」に該当する可能性があります。
  • 初診日に厚生年金に加入していた場合(会社員、公務員など):
  • 「障害厚生年金」の対象となります。もし過去に会社員として働いていた時期があり、その頃に初めて病院を受診していた場合は、現在が個人事業主であっても障害厚生年金を受け取れる可能性があります。

※受け取れる年金額は、加入していた期間や家族構成など、個人の状況や年度によって異なります。最新の支給額などの詳細は日本年金機構の公表値をご確認ください。

人工透析と障害年金をめぐる「4つの誤解」

障害年金は制度が複雑であるため、多くの誤解から「自分はもらえない」と思い込んで諦めてしまう方が後を絶ちません。特に自営業の方が見落としがちな4つのポイントを整理します。

誤解①:自営業(国民年金)だと障害年金はもらえない?

【正解】国民年金でも「障害基礎年金」を受け取ることができます。

会社員の厚生年金に比べて受給が難しいということはありません。人工透析の認定基準は一律で定められているため、自営業であっても要件を満たしていればしっかりと受給できる可能性があります。

誤解②:少しでも仕事を続けていたら(就労中なら)不支給になる?

【正解】人工透析の場合、働きながらでも受給できるケースが多々あります。

精神疾患などの一部の傷病では、就労していることが「日常生活能力がある」とみなされ、審査に影響することがあります。しかし、人工透析(慢性腎不全)については、臨床所見や治療の事実が明確であるため、個人事業主として体調を見ながら仕事を継続していても、原則として2級の認定を受けることが可能です。

誤解③:透析を始めたばかりだから、まだ申請できない?

【正解】初診日からすでに長い期間が経っている場合は、すぐに申請可能です。

通常、障害年金は初診日から「1年6ヶ月」が経過した日(障害認定日)以降でなければ申請できません。しかし、人工透析の場合は特例があり、「透析を開始した日から3ヶ月が経過した日」または「初診日から1年6ヶ月が経過した日」のいずれか早い方が障害認定日となります。

例えば、数年前に最初の受診があり、先月透析を始めたという場合は、すでに初診日から1年6ヶ月以上が経過しているため、透析を開始したその日(または直後)からすぐに申請手続きを進めることができます。

誤解④:腎臓内科の受診日が「初診日」になる?

【正解】別の病気で最初に受診した日が「初診日」と判断されることがあります。

ここは非常に重要なポイントです。例えば、「最初は別の病気(糖尿病や高血圧など)で大学病院の他科を受診し、その際の血液検査で腎機能の低下が指摘されて腎臓内科に回された」という経緯がある場合、年金上の初診日は「腎臓内科の受診日」ではなく、「最初の病気で大学病院を受診した日」、あるいはさらにその前に通っていたクリニックの日になる可能性があります。この初診日の特定を誤ると、書類が受理されなかったり、受給できなくなったりするため注意が必要です。

自分で手続きできるケース・専門家に相談した方がよいケース

障害年金の申請は、ご自身で行うことも、社会保険労務士などの専門家に依頼することも自由です。中立的な視点から、どちらを選ぶべきかの判断基準を示します。

ご自身での申請がスムーズに進むケース

  • 初診日の病院と現在の病院が同じである: カルテの保管や「受診状況等証明書(初診日の証明書)」の取得が容易です。
  • 初診日が明確で、年金保険料の未納がない: 過去の年金記録がきれいで、加入要件をすぐに満たしていることが確認できる場合。
  • 役所への往復や書類作成の時間が十分に確保できる: 平日の日中に年金事務所へ何度も足を運び、複雑な書類を読み解いて記入する体力と時間的な余裕がある場合。

専門家(社会保険労務士)への相談を検討した方がよいケース

  • 初診の病院から現在の透析クリニックまで、複数の病院を転院している: 過去のカルテが廃棄されていたり、病院が閉院していたりして、初診日の証明が難しい場合があります。
  • 最初のキッカケが「別の病気の検査」だった: どの受診日を「初診日」として主張すべきか、医学的・法的な整合性を年金事務所に説明する難易度が高くなります。
  • 体調が優れず、平日の手続きが肉体的に厳しい: 週3回の透析を受けながら、個人事業の仕事もこなし、さらに不慣れな年金手続きのために役所へ通うのは大きな負担となります。

経済的な不安を解消するための「次の一歩」

人工透析を続けながら個人事業を維持していくためには、利用できる公的制度を賢く活用し、まずは「お金の心配」を減らすことが最優先です。収入の土台として障害年金が受給できれば、体調に合わせて仕事の量をセーブしたり、無理のないペースに働き方をコントロールしたりすることが可能になります。

千代田区や秋葉原、神田周辺のエリアなど、東京都内で働く個人事業主の方々からも、当事務所には多くのご相談が寄せられています。都心部で忙しく働くフリーランスの方ほど、体調を押して無理をしてしまい、手続きが後回しになりがちです。

手続きへの第一歩として、まずは以下のような準備や確認から始めてみてください。

  1. 年金手帳やマイナンバーカードの準備: ご自身の年金加入記録を確認するために必要です。
  2. これまでの通院履歴のメモ: 「いつ、どの病院で、どのような検査や治療を受けたか」を覚えている範囲で時系列に書き出しておきます。退院時に渡された書類や紹介状の控えがあれば大切に保管してください。

「手続きをしたいけれど、何から手をつければいいのかわからない」「体調が悪くて年金事務所まで行くのが難しい」という場合は、専門家への相談も一つの選択肢です。

よくあるご質問 (FAQ)

Q1. 自営業で国民年金ですが、人工透析を始めたら本当に障害年金がもらえる可能性がありますか?

はい、十分に可能性があります。人工透析(慢性腎不全など)治療を行っている方は、国が定める障害年金の認定基準において原則として「2級」に該当するとされています。初診日の時点で国民年金に適切に加入し、保険料の納付要件を満たしていれば、自営業やフリーランスの方であっても「障害基礎年金」を受給することが可能です。

Q2. 先月透析を始めたばかりですが、今すぐ申請の手続きを始めても大丈夫ですか?

はい、手続きを進めて問題ありません。障害年金は原則として初診日から1年6ヶ月が経過しないと申請できませんが、人工透析の場合は「透析開始から3ヶ月経過」という特例があります。さらに、透析を始める前の段階(別の病気や初期の腎臓病など)で何年も前から病院に通院していた場合は、すでに初診日から1年6ヶ月以上が経過している可能性が非常に高いため、透析導入後すぐに申請書類を提出することが可能です。

Q3. 体調を見ながら少しずつ個人事業の仕事を続けていますが、就労していると不支給になりますか?

人工透析を受けている場合、仕事を継続しているという理由だけで不支給になることは原則としてありません。精神疾患などとは異なり、人工透析は「治療を行っている事実」そのものが重い障害状態(原則2級)として客観的に評価されるため、就労中であっても支給対象となるケースが非常に多く見られます。

Q4. 別の病気で受診した大学病院から、今の透析クリニックに転院してしまいました。初診日の証明はどうすればいいですか?

年金手続き上の「初診日」は、現在の透析クリニックではなく、腎臓の異常が判明するキッカケとなった最初の大学病院(あるいはそれ以前の通院先)での受診日となる可能性が高いです。その大学病院に依頼して「受診状況等証明書」という初診日の証明書類を作成してもらう必要があります。もしカルテの保管期間が過ぎているなどして証明が難しい場合は、転院の際の紹介状の控えや、当時の血液検査の結果データ、お薬手帳などを証拠として提出する方法を検討します。

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